INTERVIEWもしかして鬱(うつ)? 「TMS治療」で長引く不調の解決への糸口となるか? 東京横浜TMSクリニック理事長 大澤亮太氏にインタビュー

「TMS治療」というものをご存じでしょうか? 海外では2008年より認可され、日本でも2019年6月に保険適応(うつ病治療のみ)となりました。ニューロモデュレーションと呼ばれる治療法のひとつで、磁気の力を電気に変えて脳をピンポイントで刺激し、神経の働きを調整する治療法になります。海外では強迫性障害をはじめ依存症などに治療適応の拡大が進んでいる新たな心の治療法。はたらく上でさまざまなストレスに晒されている我々現代人にとって、まだ新しい領域ではありますが、リスクが少なく短期間で効果の高い治療法と話題になっています。今回はTMS治療を専門として扱う東京横浜TMSクリニック」大澤理事長に、その詳しい内容についてお話しを伺う機会をいただきました。

― コロナ渦が続き、精神疾患の患者さんが増えた実感はありますか?

私たちのクリニックでは、2022年4月に開院したばかりの田町三田院以外は十分な診療時間を確保するために予約をお断りせざるを得ないことが続いているので、あまり増えたという実感はないのですが、診察をしていると良くも悪くもコロナ禍の影響はどちらにも働いていると感じます。在宅ワークになったことで「人との接点が減って気持ちが楽になりました」という方もいますし、相対的に増えたかというと日本での実感は良くわからないのが実情です。ただ、海外論文を見る限り、世界的にはメンタルヘルスへの悪影響は間違いなくあり、特に貧困層の女性の方への影響があるという報告が上がっています。やはり、社会的弱者の方に対して、よりコロナの影響がある印象です。

― それはやはり金銭面の不安などが背景にあるのでしょうか?

そうですね。金銭面も現実的な生活の方も、社会的弱者の方がどうしても影響を受けやすいのが世界的な構造としてあることがわかりました。

― 精神疾患にも色々と分類があり、我々素人からは「うつ病」や「双極性障害」などいくつか耳にしたことがあるのですが、大きな区分けはあるのでしょうか?

実はこころの病気は、はじめて診察した時点で「〇〇病です」と言い切ることは難しいことの方が多いです。氷山のようなもので、見えている部分はほんの一部にすぎないことも多く、水面下には大きな氷が隠れているかもしれません。30分あまりの診察では、水面に浮かび上がっている「状態」が見えるにすぎません。問診によって水の中の部分を想像していきますが、本当の姿は通院を重ねていく中でみえてきます。ときには年単位での治療の中で、診断がかわることも少なくありません。パーソナリティや発達特性などを把握し、状態を引き起こしている要因を探っていきます。あげてくださった「双極性障害」などは、躁とうつといわれると診断が簡単そうですが、様々な合併症などが重なり、診断が非常に難しい病気のひとつになります。

― 最近、「はたらく人」に多い症状はありますか?

一番多いところでいうと「適応障害」ですね。誰でもなり得るのですが、合わない場所や合わない状況にいて折り合いがつかなくなるとストレスとなり、本人の苦痛ないしは社会的な生活への支障に繋れば、病気として捉えて治療していくことになります。

― 適応障害の症状というのは、代表的なものではどんな症状なのですか?

本当に様々で何でもあります。「いつもと違う」ということを含めて全部です。
それこそ、不安や鬱状態を自覚する方もいれば、不眠や自律神経の障害、腹痛、イライラするなど、人によって様々です。

― 事前に調べたところ、「不安」になりメンタル状態が下がってしまう方や「高揚」して上がってしまう方など、どちらもあるのが「双極性障害」ということですか?

元々脳の機能的にエネルギーの波、気分の波がある方で、生活に支障がある場合を双極性障害と診断します。例えば、ストレスが大きくかかったときに買い物をたくさんして発散するなんてこともあると思うんですね。私も衝動買いすることもありますが、その状態は双極性障害とは診断しないんです。徹夜するとテンションが上がって集中できることがありますよね。この場合は、「躁的防衛」という言い方をします。これらはストレスの対処法の1つであり、パーソナリティ的な要素も重なったりすると、ストレスの対処法が未熟になりがちで浪費や派手な異性関係、人によっては自傷行為の方向へ向かうこともあります。双極性障害の本質は、生まれもって「きっかけのない気分の波」があることにありますが、こういった目立った行動が目立つと双極性障害と誤診されてしまったりします。

― 年齢層や男女で、悩みの多い層などはありますか?

私が色々な所で外来をやってきた経験の中ですと、男女や年齢というよりかは地域によって患者さんが全然違いましたね。

― 治療法の選択肢について、TMS治療法の以外にもおすすめしているものはありますか?

色々な患者さんと学者がいて積み重ねた経験で今があるので、今の日本の医療でいくと、標準的な治療方法は服薬治療を中心に心理療法や運動療法を用いることもありますし、先ほど申し上げた適応障害の方には環境調整を中心に進めていきます。

― 「休む」ということも治療法の1つですか?

そうですね、状態が悪い時というのは、悪循環が始まると同じ環境での改善はどうしても難しい場合があります。一旦その環境から離れた状態にすることで捉え方が変わることもあるため、このままで「何とかなる」と思えない場合は、人によっては休職をおすすめすることもあります。

― TMS治療とその他の治療の違いについて教えてください。

TMS治療はまだ馴染みがないものですが、簡単にいうと脳の働きを外からピンポイントで刺激して調整することで、脳の働きを整える治療になります。
脳はネットワークを作って様々な機能を担っているので、「〇〇を刺激したら△△の機能がよくなる」というシンプルなものではないのですが、これまでの研究で、治療効果がある場所や刺激方法が特定されてきています。そういう意味では、これからも様々な可能性がある治療法ですし、私たちも治療効果を実感しているためとてもいい治療だと思っています。一般向けにわかりやすく簡単に言うと、脳の働きが低下して症状が引き起こされているケースの場合は、TMS治療も選択肢の1つになりえると思います。

― 不適切な場所を刺激した場合は、悪影響を及ぼすのでしょうか? それとも単純に効果が出ないだけでしょうか?

副作用が少なく基本的には安全性の高い治療ですので、危険は少ないと思いますがお金が多くかかる治療ですので、適切に治療していくべきです。
私たちとしては正直なところ、本当にギリギリの価格で提供させていただいていますが、それでも一連の治療費は安くても10~15万円してしまいます。とてもいい治療ですし治療成績も良いものですが、スタンダートなお薬や心理療法を検討いただいた上で、TMS治療を選択肢として考えていただいたほうが良いと考えています。そして効果のあるTMS治療を行っていくためには、臨床経験のある精神科医が判断していくことが必須です。

― TMS治療に関して、おすすめできない方や、治療での注意点はありますか?

注意点はほとんどないですが、痙攣を誘発する可能性があるため、てんかんや脳のご病気がある方にはおすすめできないです。もう一点、磁気や金属が頭部に入っている方もできないです。
あとは病院選びの点ですね。治療技術という点においてはもちろん私たちは頑張ってやっている自負はありますが、たとえ技術に大差がなかったとしても、TMS治療は自由診療の領域なので金額もまちまちです。そしてTMS治療を “どう使うか” という部分は、もちろんメンタル疾患の臨床経験がなければ難しいですし、残念ながら倫理観が疑わしい医療機関もあります。

― では、おすすめできる患者さんはどういった方ですか?

間違いないのがうつ病、強迫性障害の患者さんですね。強迫性障害は、従来の治療法でも難治な方も多く、脳の機能に原因があることがわかってきているので、補助療法として「rTMS療法」がアメリカは2018年に認可されています。産後うつの患者さんなど、なるべくお薬を使いたくない方にも良いかと思います。最近海外で言われているのが、依存症への効果です。アメリカでは、ニコチン依存症である禁煙治療にも認可がされています。
それから、コロナ後遺症に治療効果が期待できる可能性があるため「コロナ後遺症のメンタルヘルスに資するTMS療法探究プロジェクト」を立ち上げました。コロナ後遺症に関しては最近、プレスリリースを発表したのですが、慶應義塾⼤学医学部 特任准教授 野⽥賀⼤医師が中心となって、医療法⼈社団創友会ヒラハタクリニック、新宿・代々木こころのラボクリニック、東京横浜TMSクリニックが協力をし、条件を絞った24名のコロナ後遺症の方に無料で治療を行い、検証を行っています。
コロナ後遺症については、まだ始まったばかりでエビデンスがありませんが困っている人がとても多いです。本来医学は、エビデンスの積み重ねが重要ですが、コロナ後遺症は困っている方が目のあえにいる状況ですから、走りながらある程度の結果を出していてればと考えています。治療効果がまだ明確化されていないため無料としています。私たちの中でも治療効果が示せれば、なるべく早い段階で患者さんに治療として還元していきたいと考えています。

― TMS治療について、こころの不調を抱える働く人へのメッセージがあればお願い致します。

TMS治療はあくまで治療選択肢の1つです。お薬の治療と比べたメリットとしては、副作用の少なさと、短期集中治療が可能で治療期間が短いこと、再発率が低いことです。働く人にとっては、病気によって失われる損失を小さくできる治療法と感じています。
TMS治療を求めて来られた方にもお薬の治療の方が適している場合はお薬をすすめていますので、気軽に相談していただきたいです。
法人全体のクレド(スタッフの信条)としては、自分たちの「家族や友達を紹介できる医療をしよう」という事を掲げています。新しく立ち上がった田町三田院の院長は、まさに私の身の回りでメンタル不調となった方から相談されたときに、いつも紹介してきた精神科医の先輩です。心の治療というのは、メインの基準が外科のようにオペの成功症例などの数字で出すことは出来ないため、何が一番良い医療かと考えた時に「紹介しようと思える医療」だと思いましたので、それをスタッフ一同で実践していきたいと思っています。

― 貴重なお話をありがとうございます。次回は、TMS治療の詳細や実際に治療を受けられた方へのインタビューを掲載予定です。


大澤 亮太

山梨大学医学部卒。国際医療福祉大学にて研修終了後、産業医を意識して精神科医療に進み、精神科単科病院やクリニックにて経験を積み、産業医として20社以上の嘱託産業医を務める。精神保健指定医、日本医師会認定産業医、健康スポーツ医を取得済。平成25年より自身の勉強を兼ねて、「医者と学ぶ心のサプリ」のサイト運営を開始。平成29年4月に元住吉こころみクリニック開院。令和2年2月、医療法人社団こころみ理事長に就任。

磁気刺激という新たな治療選択肢を| 東京横浜TMSクリニック

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MAHO

働く女性を応援したいワーキングマザー。オンオフ問わず役立つ便利グッズに興味あり。 好きな言葉は「時短」。

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